2019 ダービー: JRAの白眉の演出

中山と東京の錯覚をこの際捨てて欲しい。中山は強い馬が勝つコースで、東京は弱い馬でも勝てるコースだと!直線が長い舞台は芝居がしやすく、短い舞台は芝居がしにくいのである。---------高本公夫 『競馬で勝って喚起する本』.p110.「「強い馬が勝つ東京競馬場」という大錯覚を捨てろ」 より
正しい競馬の比率を示そう。調教師五に対して馬二、騎手二、レース展開一といおう。・・・馬七・人三という普通の競馬ファンがいだく"定説"は真っ赤なウソということがわかろう。---------高本公夫 『競馬で勝って喚起する本』.p106. 「馬の実力でレースが決まるのは、たった二割だ」より

■ 穴馬は息を殺しヒッソリと佇む

自分よりさらに人気のない16番人気の馬(ヴィント)と共に1枠の「角」にヒッソリと「居」をかまえていたゼッケン1番、角居厩舎のロジャーバローズ。今をときめく社台系ではなく、日高の個人牧場(飛野牧場)の生産馬。粘りのある先行力はありそうだが、レッドジェニアルにキッチリ差された京都新聞杯の戦いぶりからは、お世辞にもダービーを勝つ力があるとは思えない。シンボリルドルフが勝ったダービーで2着に粘りこんだスズマッハのような強さは感じられない。

同じ人気薄を狙うなら同レースで鋭い差し脚を披露したレッドジュニアルの方がはるかに可能性が高く見える。実際、JRAデータ分析も、1800mの重賞勝利+10頭立て以上の2000m戦で勝利+キャリア5戦以内+前走1着+追い込み脚質と、レッドジェニアルを支持するデータばかりで、ロジャーバローズを推すデータはせいぜい騎手の乗り替わりがないことぐらい。その騎手も絶不調の浜中騎手。

僚馬は断然の1番人気、サートゥルナーリア。「二頭出しは人気薄を狙え」という格言があったとしても、ロジャーバローズではちょっと狙いづらい。しかも調教師は、昨年酒気帯び運転という不祥事を起こし、今年の1月6日まで調教停止処分にされていた角居調教師。サートゥルナーリアが消えるのならロジャーバローズも一緒に消えるだろうと感じさせるに十分な弱々しさだ。

 たとえG1ヘッドラインが「令和の第一章、最強の英雄録。」と1枠を教えても、サイン馬券師達ですら冗談にしか受け取らないだろう。トランプがエアフォースワン(one)で来日して、マリーンワン(one)で移動するという、普通なら1枠1番に注意するべき出来事があっても、ロジャーバローズでは1番で勝負しようとは思わないだろう。もちろん、トランプ大統領から「トランプ=エース=1番」という連想をしても、すぐに打ち消されるだろう。JRAがご丁寧に「7071頭の頂点」と数字を出してまで、7枠と1番-7番を教えてくれているのに、そこから馬券を買えた人がどれだけいたことか?前年のダービーで、1枠1番、断然の1番人気のダノンプレミアムが、2番人気の4枠ブラストワンピースとともに消えて波乱を演出している。前年のレースに気をつけろという高本氏の理論に沿えば、1枠と4枠は要注意なのだが・・・・。

■ 負ける1番人気はケバケバしい

穴馬は誰にも気づかれないようにヒッソリとたたずむ。一方、負ける人気馬は賑やかに飾り立てられる。ヘッドラインの「英雄録(ロク)」という不自然な言葉は、6番の勝利を示唆しているようにも見える。2枠サトノルークスと3枠マイネルサーパスの語尾「ス」の馬名の接触、そのマイネルサーパスを「サト」と「サート」から始まる二頭が挟み込み、3枠は「いかにも」という強調がされている。そして、サートゥルナーリアと同枠のマイネルサーパスは「サー」を共有し、そのサーパス(surpass)という言葉は超越という意味である。3枠はなんとギラギラとしていることか。

さらに、ダービー前日に行われたダービー予告レースというべき葵ステークスは、1着3枠6番-2着7枠13番-4枠7番と、ダービーの「1番人気ー2番人気ー3番人気」と同じ馬番で決まっている。これだけ派手に強調された1番人気は馬券になるのだろうか?消える運命にあると見るのが、高本公夫理論だ。冷静に見ればわかることである。いつもは勝馬を教えてくれるJRAデータ分析は、騎手が乗り替わったサートゥルナーリアにダメ出しをしていた。

一方、サートゥルナーリアに続く人気馬には、地味なサインが出ていた。ダノンキングリーは文字通り、トランプのキング。特に派手なサインではない。ヴェロックスの馬番は13。これもトランプのキングだ。ヴ「ェ」ロックス、川田(「か」わだ)騎手、「ラ」ンフォザローゼスで国家斉唱をする木村「カエラ」になるという指摘をしている人もいた。ヘッドラインの英雄録(ロク)がヴェ「ロック」スを教えているという見方をした人もいた。いずれにしろ、地味なサインである。

サートゥルナーリアは消えるのではないか?良くても3着かもしれない。勝つのはどの馬か。3頭に割って入るのは人気薄の馬ではないか?そこまで読んだとしても、ロジャーバローズに思い当たる人は少なかっただろう。「調教師五に対して馬二、騎手二、レース展開一」で競馬が決まるのならば、京都新聞杯で二着に粘りこんだロジャーバローズとサートゥルナーリアの間には大した違いはなかった。馬の力の過信・拘りは負け組への道の一里塚である。

■ 筋書き通りの番狂わせ?

サートゥルナーリアの出遅れが単なる失敗ではなく故意だったら?騎手達が後ろから来る実力馬を意識して、直線の長い東京競馬場に安心して逃げ馬を楽に逃げさせてしまう。そんな展開が演出されたものだとしたら?

不祥事を起こした角居調教師は、二年後に引退をすることでケジメをつけた形になったし、数々の名馬を産みだした実績から今年のダービーを勝つ資格は得ていたのだろう。しかし、断然の1番人気に支持されたノーザン.F産の晴れがましい馬の堂々たる差し切り勝ちではなく、日高の個人牧場産のヒッソリとした穴馬のトリッキーな逃げ残りでしか勝たせてもらえなかった・・・と高本氏なら書いたかも知れない。

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